【税理士監修】歯科・美容皮膚科・小児科なら知っておきたい消費税の有利選択
消費税の申告が必要なクリニック
消費税の申告・納税が必要となるクリニックとして、矯正やインプラントの多い歯科、美容皮膚科、予防接種の多い小児科があげられます。2年前の消費税が課税となるの売上高(自費診療等)が1,000万円を超える場合には、当期から消費税の納税義務者となります。
また、上記以外の診療科目のクリニックでも、ベンツやポルシェ等の自動車を売却された、下取りに出された場合には、売却代金分、消費税の課税となる売上高が上昇して、一時的に1,000万円を突破し、消費税の納税義務者となることもあります。
著者:フェイス税理士事務所 代表税理士 高田祐一郎
消費税の計算の仕組み(原則課税と簡易課税)
消費税の計算の基本的な仕組みはとても単純です。例えば小売業の場合、消費者から預かった消費税から、仕入先へ支払った消費税を控除した残額を、国へ納付することになります。ただし、計算方法が、原則課税と簡易課税の2つがあります。
原則課税
売上高10,000円(消費税1,000円)、仕入高6,000円(消費税600円)の場合、消費税1,000円から消費税600を控除した400円を、国へ納税します。これが原則課税と呼ばれる方法です。
簡易課税
2年前の消費税が課税となる売上高が5,000万円以下の場合には、簡易課税という方法を選択できます。仕入・経費の消費税について、みなし仕入率を使う方法です。売上高10,000円(消費税1,000円)のときに、仕入・経費の消費税については、1,000円×小売業のみなし仕入率80%=800円程度かかると想定し、売上の消費税1,000円から仕入・経費の消費税800を控除した200円を、国へ納税します。
クリニックの自費での医療サービスは、みなし仕入率50%です。つまり、簡易課税の場合、患者様から預かった消費税の半額のみを国へ納税すれば良いということなります。
原則課税を取るのか、簡易課税を取るのかは有利選択です。簡易課税を採用する場合には、事業年度が始まる前月の末日までに、税務署へ簡易課税選択届出書の提出が必要となります。
クリニックの具体例
さて、クリニックの具体例(下図参照)を見ていきましょう。保険診療の売上8,000万円、自費診療の売上2,000万円の事例です。
原則課税
総売上に占める自費診療の売上の割合(課税売上割合)は20%です。クリニックの消費税計算は特殊で、患者様から預かった消費税200万円から、仕入・経費の取引先に支払った消費税400万円(100万円+50万円+250万円=400万円)の全額を控除することはできません。控除できるのは仕入・経費の取引先に支払った消費税400万円×課税売上割合20%=80万円になります。
結果として、患者様から預かった消費税200万円から80万円を控除した120万円を納税することになります。
簡易課税
簡易課税は、仕入や経費の消費税は関係がありません。売上の係る消費税から仕入・経費でかかるであろう消費税を推定します。この推定にあたっては、業種ごとの率(みなし仕入率)を使います。クリニックの自費での医療サービスは50%です。患者様から預かった消費税200万円×50%=100万円を仕入や経費の支払いにかかった消費税とみなします。
結果として、患者様から預かった消費税200万円から100万円を控除した100万円を納税することになります。
原則課税の場合は120万円納税、簡易課税の場合は100万円納税のため、このケースでは簡易課税が有利となります。簡易課税は2年継続適用となるため、2年間合計で有利不利選択をする必要があります。
原則課税には個別対応方式が存在する
ここまでは原則課税のうち一括比例配分方式を使用して説明してきました。上記のケースで更に有利な方法として、「原則課税のうち個別対応方式」を使うことがあげられます。集計がやや煩雑にはなるものの、歯科・美容皮膚科・小児科などの自費診療が多いクリニックにおいては有利になるケースも多い方法です。ただし、院長先生の集計への協力も必要なため、クリニックのお客様に対して、ここまで対応される税理士事務所はそれほど多くないと思います。
結果として、今回のケースでは、原則課税のうち個別対応方式を採用する方法が、消費税の納税額80万円となり、最も有利になります。
個別対応方式のポイントはひとつのみです。仕入・経費について、①保険診療に対応するもの、②自費診療に対応するもの、③クリニック全体に共通するものの3つに分けます。
- ①保険診療に対応するもの:仕入・経費の消費税の全額が控除が不可能
- ②自費診療に対応するもの:仕入・経費の消費税の全額が控除が可能
- ③クリニック全体に共通するもの:仕入・経費の消費税×課税売上割合20%が控除可能
①はクリニックにはほぼ無いため、②自費診療に対応する仕入や経費を抽出することで、消費税の節税となります。具体的には請求書から下記のものを抽出することになります。
- 歯科の矯正やインプラントに関わる材料費や技工料
- 美容皮膚科の化粧品等の仕入
- 小児科の予防接種ワクチンの仕入
消費税そのものの節税は難しいですが、3つの計算方法から、自院により有利なものを選択することで、節税を図ることができます。計算方法を選択するための届出書の提出期限が事業年度が始まる前日になっているため、事業年度が始まる前の段階でのシミュレーションが重要です。