【税理士監修】一般社団法人でクリニックを開業・開設
近年、一般社団法人でクリニックを開業したい、開設したいというご相談をよく受けるようになりました。一般社団法人が開設するクリニックの数は、2023年で780か所に上り、4年間でおよそ2倍に増加しています。一般社団法人法人で設立した場合、どのようなメリットがあるのか、どのようなリスクがあるのかについて解説したいと思います。
著者:フェイス税理士事務所 代表税理士 高田祐一郎
一般社団法人でクリニックを開業・開設する方法
クリニックを一般社団法人で開設する場合、非営利型法人である必要があり、具体的には法人税法に規定する非営利徹底型法人で開設することになります。非営利徹底型法人は、下記の要件を満たしている法人になります。
- その定款に剰余金の分配を行わない旨の定めがあること。
- その定款に解散したときはその残余財産が国若しくは地方公共団体又は次に掲げる法人に帰属する旨の定めがあること。
・公益社団法人又は公益財団法人等 - 前2号の定款の定めに反する行為を行うことを決定し、又は行ったことがないこと。
- 各理事について、当該理事及び当該理事の配偶者又は三親等以内の親族その他の当該理事と特殊の関係のある者である理事の合計数の理事の総数のうちに占める割合が、3分の1以下であること。
上記3つの要件は定款に定めれば良いだけになります。4つ目の要件として、理事のうち3親等内の親族の割合を1/3以下にしなければなりません。理事が3人であれば、他の2名は親族以外に依頼することになります。なお、監事を置くかどうかは任意です。
税法上のメリット・デメリットはなし
法人税
法人税の取扱いについて、一般社団法人のうち非営利型法人は、法人税法に規定する34種類の収益事業を行った場合のみ課税されます。クリニックは「医療保険業」という収益事業に該当します。そのため、医療法人と同じ税負担となります。
法人事業税
法人事業税の取扱いについて、医療法人は保険診療収入に対応する所得は非課税、自費収入に対応する所得のみ課税されます。一般社団法人の非営利型法人も同じく、保険診療収入に対応する所得は非課税です。
つまり、医療法人でも一般社団法人でも同じ取扱いのため、基本的に税金面でのメリット・デメリットは無いということになります。
消費税
消費税の取扱いについて、一般社団法人は「特定収入」という特殊な計算となるため、注意が必要です。
相続税
相続税の取扱いについて、以前持分のない一般社団法人を使った相続税の租税回避行為が多く行われたことにより、理事が死亡した場合には、一般社団法人を個人とみなして、一般社団法人に相続税を課するという規定ができました。しかし、クリニックを一般社団法人で開設する場合は、非営利型法人であるため、この規定の対象外となります。
一般社団法人の活用が想定されるケース
一般社団法人でクリニックを開設するメリットは医療法の規制の対象外になるということです。一般社団法人であれば、医療法に基づいて運営する必要もなければ、決算終了後に都道府県へ決算届を提出する必要もありません。都道府県から医療法の関係でとやかく指導を受けることがないということです。
それではどのような場合、一般社団法人での設立が想定されるのでしょうか?
非医師が代表者となりたいケース
原則として、医療法人の理事長は、医師である必要があります。医師でない方が代表となりたい場合は、一般社団法人を検討する必要があります。
収益業務も行いたいケース
医療法人は、社会医療法人でもなければ、不動産賃貸業等の収益業務を行うことができません。一般社団法人であれば、そのような規制はないため、自由に収益業務を行うことができます。
一般社団法人のリスク
医療法人でクリニックを開設すると、医療法に基づいて都道府県から指導を受ける場合があります。一般社団法人のクリニックは医療法の規制を受けないため、自由な運営が可能です。
しかし、これはあくまで、現時点の取扱いに過ぎません。将来的には医療法の規制が、一般社団法人のクリニックに及ぶ可能性はあります。
現在、厚生労働省は、一般社団法人がクリニックを開設する際などに医療法人と同等の書類の届け出を求めるなど、より厳格に経営や事業の内容を確認する仕組みを新たに導入する案を示し、了承されています。具体的には、事業計画書や財務諸表などの届け出を想定していて、すでに開設されているクリニックに対しても、定期的な届け出を求めることを検討しています。
そのため、先述の一般社団法人での開設が想定されるケースに該当せず、一般社団法人で開設しなければならない理由が無ければ、私はシンプルに医療法人を設立されることをお勧めしています。
一般社団法人の隠れたメリット
一般社団法人は医療法の規制を受けないため、自由に売却をすることが可能という隠れたメリットがあります。
持分あり医療法人であれば、持分を売却することにより、第三者へ承継します。
現在、持分なし医療法人しか設立することができません、持分なし医療法人を第三者へ承継する場合には、売買対象とする持分が存在しません。この場合はどのようにして、承継対価を受け取るのでしょうか。一般的には、譲受側のドクターから、医療法人に資金を入れてもらい、それを原資に役員退職金で受け取るという方法が考えられます。
税法上、役員退職金の損金算入限度額は、最終役員報酬月額×役員在任年数×功績倍率で求めます。理事長の功績倍率は3倍、理事の功績倍率は2倍程度になります。この方法は厚生労働省でも適正な役員退職金として認めていますが、これを超えて役員退職金を支払う場合、剰余金の配当類似行為として、医療法に違反する可能性があります。
しかし、一般社団法人であれば、医療法の規制の対象外であるため、損金算入限度額を超えて役員退職金を支払っても、それを直接罰する法律はありません。そのため、売買金額が高額になる場合、つまり、過大な役員退職金での承継になる場合、一般社団法人での売買の方が対応しやすいと言えます。