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【税理士監修】医療法人の理事長に社宅を貸与できるか

医療法と理事長専用社宅

医師の先生から、医療法人で社宅を貸与したいとのご相談を受けることがあります。理事長専用社宅の場合には、原則として医療法人から理事長へ特別の利益供与に該当する可能性が高いと考えられます。

医療法54条では「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と定められています。医療法人は非営利法人という前提があることから、理事長専用社宅について、剰余金の配当類似行為に該当する可能性があると考えられます。

厚生労働省の見解

厚生労働省は、医療法人の社宅について「持分の定めのない医療法人への移行計画認定制度のQ&A」において、次の見解を出しています。

Q 役員へ建物を貸与しているが、特別の利益供与とされない場合は有るか?

A 例えば、次のような場合には、特別の利益供与とされないこととなる。

  • ①福利厚生規程に基づき、他の職員と同じ基準で貸与している場合
  • ②救急対応等の業務上の必要性から貸与している場合(規定等に基づき貸与している場合や相応の賃料を受領している場合に限る)

つまり、①や②のケースでは社宅の貸与が認められることになります。

①については、医療法人内で社宅規定を設けて、社宅について役員であっても従業員であっても平等に利用できる状態にする必要があります。従業員も社宅が利用できても、理事長にだけは豪華社宅を貸与しているのであれば、平等ではないため、特別の利益供与となります。

②については、分娩のある産婦人科、夜間の救急外来に対応している診療所を有する医療法人で、その診療所から自宅が離れている場合であれば、分娩や手術を行う理事長にのみ社宅を設置していても認められる可能性があると考えます。

しかしながら、現実問題として、理事長専用社宅を所有する医療法人は一定数存在し、①や②を充足して社宅を貸与しているケースは少ないと考えられます。

都道府県の監査体制

医療法人は、事業年度終了後3か月以内に、決算届(事業報告書等)を都道府県に提出することになっています。基本的に、都道府県はこれをもとに医療法人の運営状況に問題が無いかをチェックします。

このとき、税務申告書に添付する貸借対照表や損益計算書そのものを提出するのではなく、都道府県のフォームに合わせた「要約版」を提出するため、社宅を貸与しているかどうかまではなかなか分からないというのが現状です。

決算届(事業報告書等)には、関係事業者との取引の状況に関する報告書も含まれます。これは医療法人と、医療法人の役員やMS法人との取引内容を報告する書類になります。

MS法人が所有する社宅を、医療法人が借りる場合には提出する可能性はありますが、MS法人との年間取引額が1,000円以上という要件があるため、実際には報告する機会は少ないかもしれません。

ここまでは都道府県における医療法の取扱いを述べました。次は税務上の取扱いを理解しましょう。

税務調査でのリスク(役員のみに社宅を貸与するケース)

税務上の取扱い、つまり税務調査でのリスクについて見解を述べます。株式会社では社長にのみ社宅があり、従業員には社宅制度が用意されていないということはとても多くあります。

社宅について、役員と従業員を平等に扱う必要があるかという平等要件について検討していきます。例えば、人間ドッグの費用負担という論点において、役員や特定の地位にある人だけを対象として、人間ドック費用を負担するような場合には、給与課税の問題が生じますが、(所基通36-29)、社宅については、役員と従業員を平等に取り扱わないといけないという要件が設けられていません(所基通36-40)。

社宅は福利厚生という前提があるものの、役員のみに社宅を貸与することは税務的には問題ないと考えています。

税務調査でのリスク(社宅家賃の負担割合)

MS法人は株式会社や合同会社であり、医療法における特別の利益供与の論点も発生しないため、MS法人が社長にのみ社長専用社宅を貸与することは可能となります。

税務上、社宅については、社宅家賃の全額を会社が負担するのではなく、「賃貸料相当額」を算定して、社宅家賃の一部を役員や従業員にも負担させる必要があります。全額株式会社負担となると、給与課税の問題が生じます。

詳細な計算は「役員に社宅などを貸したとき(国税庁)に記載がありますが、賃貸マンションの場合、役員であれば家賃の50%程度、従業員であれば家賃の20%程度の水準を負担すれば、社宅を貸与しても税務調査で給与課税として問題になることはありません。

したがって、社宅については、税務上は、医療法人や株式会社が役員にのみ社宅を貸与していても、役員から賃貸料相当額(家賃の50%等)を徴収している限り、税務調査で指摘を受けるリスクは無いものと考えています。なお、床面積が240㎡を超えると、豪華社宅として認められないこともあるため注意が必要です。

 

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