医療機関のインボイス対応の実務
インボイスとは?
2023年10月1日以降の取引から、インボイス制度がスタートします。スタート後は、下記の適格請求書の記載項目①~⑥を、請求書や領収書に記載しなければ、診療代金の支払者側で仕入税額控除を取ることができません。仕入税額控除を取れないということは、支払者側で支払った消費税が、国に納付する消費税から控除することができず、支払者側の負担になってしまうということです。
2023年10月1日から適格請求書発行事業者として登録を受けたい場合には「適格請求書発行事業者の登録申請」により、登録番号を取得することが必要です。
①医療機関の名称および登録番号
②取引年月日
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率
⑤税率ごとに区分した消費税額
⑥書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
登録番号を取得するということは、消費税を納税する課税事業者になるということです。税金面での有利不利や取引先企業との関係を考慮して、登録番号を取得するかどうかを検討をする必要があります。
クリニック・病院の場合
医療機関は、一般的に患者さん個人との取引であり、患者さん個人が仕入税額控除を取ることはないため、適格請求書を発行する必要はありません。よって、通常は登録番号の取得は必要ないということになります。
しかし、例えば、企業から健康診断や予防接種を受託しているケース、産業医として報酬を受け取っているケース(給与を除く)においては、その企業が仕入税額控除を取りたいため、適格請求書の発行を求めてくることが想定されます。この場合、医療機関は登録番号を取得することを検討する必要があります。
免税事業者である医療機関の対応
自費収入の少ないクリニックでは、消費税の申告義務がなく、免税事業者というケースが多くあります。現在、医療機関の約7割が免税事業者です。インボイス制度における登録番号の取得=消費税の課税事業者への転換ということになりますので、通常は登録番号を取得せずに、免税事業者のままいることが税務的に有利というケースが多くなります。
しかし、前述のとおり、多くの企業から健康診断や予防接種等を受託していて、登録番号の記載のある適格請求書を求められる場合、それら企業との取引関係継続のために、登録番号を取得せざるを得ないというケースが想定されます。
企業からの健康診断や予防接種等の受託が少ない場合には、インボイス登録をせずに値引きで対応する、その取引が無くなってもやむを得ないと判断するという選択肢もあります。
なお、免税事業者を継続される場合、免税事業者の消費税請求を禁止する規定はありませんが、企業への健康診断や予防接種の請求書には、消費税〇〇円とは記載せず、税込表示のみにされることがトラブル防止の観点からは良いと考えます。
また、登録番号を取得して課税事業者となり、適格請求書発行事業者となった場合、企業に発行する請求書には登録番号を記載し、患者さんに発行する医療費の請求書・領収書には登録番号を入れないといった対応も可能です。相手方から適格請求書の交付を求められたときに、登録番号を記載した請求書の交付義務が発生するからです。
適格請求書の交付義務等
適格請求書発行事業者が、国内において課税資産の譲渡等を行った場合に、相手方(課税事業者に限ります。)から適格請求書の交付を求められたときは、適格請求書の交付義務が課されています(新消法 57 の4①)。
免税事業者がインボイス申請をして課税事業者になった場合
免税事業者がインボイスを発行する課税事業者になった場合、2023年10月1日以降の取引から、消費税の納税義務が発生します。
ただし、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間については、納税額を預かった消費税の2割に抑える負担軽減措置があります。
例えば、年間の自費収入が800万円の場合、800万円×消費税率10%×2割=納税額16万円で済みます。この負担軽減措置の適用にあたって、事前の届出等は不要であり、負担軽減措置の適用を受ける旨を確定申告書に付記すればよいことになっています。
課税事業者である医療機関の対応
自費収入等、消費税が課税となる収入が1,000万円を超える医療機関は、元々消費税の課税事業者ですので、インボイス制度移行後、税務面での有利不利はないため、登録番号を取得することになります。
実務的な対応として、まず請求書を発行する相手方が事業者となる取引をピックアップし、それらの取引を行った場合には、登録番号の入った適格請求書を発行する必要があるという認識が必要です。請求書や領収書に登録番号を印字しようとすると、システム改修の必要性も出てくるため、登録番号のゴム印を作成する等、必要な場合のみ登録番号等の適格請求書に必要な事項を明記するといった簡易的な対応でも問題はありません。