医療機関のレセコン・電子カルテと経営強化税制
個人クリニック・医療法人は中小企業経営強化税制の対象
中小企業経営強化税制は、対象資産を取得した場合、取得価額の10%を法人税から税額控除するという制度です。2,000万円の対象資産を取得すれば、10%である200万円の税金が安くなります。
これは経済産業省・中小企業庁発信のため、株式会社などの企業をターゲットとした税制ですが、医療法人が対象から除外されていることはなく、医療法人も対象法人に含まれています。個人開業医も対象です。しかし、企業向けの税制のため、医療機関については対象資産が限定されてくることに注意が必要です。
著者:フェイス税理士事務所 代表税理士 高田祐一郎
一般的に対象となる資産とは
経営強化税制の対象となる資産は「建物附属設備、機械装置、測定工具および検査工具、器具備品、ソフトウェア」の5つです。医療法人が、機械装置、測定工具および検査工具を取得することはまずないと思います。そのため、医療法人が取得する資産で、経営強化税制の対象となる可能性があるものは「建物附属設備・器具備品・ソフトウェア」の3つということになります。
医療機器や建物附属設備は対象外
経営強化税制は、医療機関特有の取扱いに注意が必要です。医療保健業を行う事業者が取得する建物附属設備と医療機器は対象外(中小企業等経営強化法施行規則8条)とされています。
医療機関は医療保健業を行う事業者に該当しますので、建物附属設備と医療機器は対象外ということになります。
また、医療機関で介護事業を行う法人もあります。医療保健業に介護事業は含まれるのでしょうか?答えはイエスです。医療保健業の範囲は、法人税法の収益事業の定義を準用して判定するので、介護事業も含まれます。つまり、クリニック、病院、介護事業で取得する医療機器や建物附属設備は、経営強化税制の対象外ということになります。
結論として、医療機関(医療法人・個人開業医)が取得する資産で、経営強化税制の対象となるのは「医療機器以外の備品」と「ソフトウェア」の2つに限定されます。
レセコンや電子カルテは税額控除できるか?
医療機関の実務でよく出てくる経営強化税制の対象資産はレセコンや電子カルテです。これらを購入する際は、ソフトウェア部分およびハードウェア部分について、経営強化税制のA類型の証明書が発行できないかどうか、必ずメーカーに確認するようにしましょう。
レセコンや電子カルテ以外のソフトウェアは、A類型の証明書が出にくいという話も聞きます。この場合は、経営強化税制(取得価額の10%税額控除)よりも、控除額が低い「中小企業投資促進税制(取得価額の7%税額控除)」に移行して、検討することになります。
医療機関の税額控除の解説は、日本医師会のレポートがよくまとまっています。
なお、経営強化税制のA類型の対象となるソフトウェアは、「設備の稼働状況等に係る情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの」に限られています(中小企業等経営強化法施行規則8条2項)。
ITに精通している専門家でもなければ判断のできない内容ですが、一般社団法人情報サービス産業協会が対象となるソフトウェアを公表しており、この中にレセコンや電子カルテが含まれているため、対象と考えて間違いありません。
A類型の証明書を入手する
経営強化税制の適用にあたって、レセコンや電子カルテの請求書または見積書を、ソフトウェア部分とハードウェア部分に分けてもらう必要があります。ソフトウェア部分はソフトウェアとして、ハード部分は器具備品として、税額控除の対象になる可能性があります。
ソフトウェア部分については、通常、A類型の証明書が発行されます。ハードウェア部分については、サーバーであれば、A類型の証明書が発行されることがあります。
まずは、販売業者に、経営強化税制の対象になるかどうかを確認して、A類型の証明書の発行を依頼しましょう。
経営力向上計画を厚生局に提出する
A類型の証明書が入手できれば、経営力向上計画を作成して、厚生局に提出します。原則として、経営力向上計画について、厚生局の認定を受けてから、設備を取得します。
例外として、設備の取得から60日以内に、経営力向上計画が、厚生局に「受理」されれば良いということになっています。つまり、経営力向上計画の提出期限は、設備の取得から60日以内ということになります。ただし、設備の「取得」と同一事業年度内に経営力向上計画が「認定」されなければなりません。
弊所では経営力向上計画の作成のお手伝いもしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
IT導入補助金の活用
レセコンや電子カルテであれば、IT導入補助金の対象になることが多いです。販売業者が営業トークで使うのか思いきや、採択されない可能性があるためか、案内してくれないことも多々あります。レセコンや電子カルテを購入される際には、IT導入補助金も、忘れずに検討するようにしましょう。
課税の繰り延べ(国庫補助金の圧縮記帳)
医療法人でIT導入補助金を受給した場合、受給した補助金に35%の法人税が課税されて、国に納付することになれば、何のための補助金か分からなくなります。
そこで、国庫補助金の圧縮記帳により、補助金を受給した事業年度で、補助金収益と同額の固定資産圧縮損という損金を計上することで、受給した事業年度に法人税を課税しないようにすることができます。
これは課税の繰り延べに過ぎないため、固定資産の取得価額が圧縮(減額)されて、将来の減価償却費を減額することになるため、徐々に課税の取戻しが行われることになります。
注意点ですが、国庫補助金の圧縮記帳を使った場合、補助金に対する法人税の課税を繰り延べることができるものの、固定資産の取得価額を減額することになるため、取得価額×10%で算出する税額控除額が減少するというデメリットがあります。
したがって、毎期黒字を出しいている医療法人であれば、国庫補助金の圧縮記帳を使わず、税額控除をフル活用する方が有利な場合が多いです。