【税理士監修】クリニック承継開業の譲渡対価の相場と税務の有利選択
M&A仲介を挟まず、医師の先生同士で直接交渉される承継開業
クリニックの後継者不足や新規開業の際のリスクヘッジのために、承継開業をされる方が増えています。
クリニックの経営方針、一緒にクリニック築き上げてきたスタッフ、長年通ってくれた患者様がいるからこそ、創業院長は、後輩医師や代診医師など、繋がりのある信頼できる方に託したいと考えるものです。
今回は個人クリニックを、勤務医の先生が承継することを前提として、高額なフィーが発生するM&Aの仲介会社を挟まず、院長先生同士で直接交渉されるケースを想定し、その解決方法をご提案します。
著者:フェイス税理士事務所 代表税理士 高田祐一郎
時価純資産+営業権が承継対価
承継開業は、クリニックの譲渡になりますので、承継対価(譲渡対価)を設定する必要があります。一般企業のM&Aでは「時価純資産+営業権」で売買されます。営業権は正常営業利益の3年分~5年分という設定が多くなります。正常営業利益とは、営業利益に、役員報酬や節税生命保険料等の承継後に発生しないイレギュラーな経費等を加算した利益です。
しかし、クリニックは属人性の高い業界であり、売上は院長先生個人の信頼やスキルに大きく依存しています。承継開業はクリニックの「顔」たる院長の退任が前提になることが大半であることから、患者の離脱リスクがあります。後継者に引き継いでも同程度の営業利益が維持される保証がないのです。
また、クリニック承継は買い手市場であること(売り手は多く、買い手は少ない)、医師の専門や出身大学なども承継のネックとなることにより、一般企業よりもクリニックの営業権が低く評価されます。
承継対価(譲渡対価)の相場
それではクリニックの承継対価の相場はどの程度なのでしょうか?
クリニックも一般企業同様に「時価純資産+営業権」により算出されることになります。時価純資産は、クリニックの不動産、内装や医療機器の承継時点の価値、つまり時価になります。この時価純資産は、クリニックの貸借対照表を確認し、双方が納得する時価を算定する必要があります。医療機器については承継後に必要なもの、不要なものの見極めも必要です。
ここまでは一般企業と同じですが、クリニックの営業権の価値は、先述の理由により低く見積もられます。、過去の事例では次の水準で承継されるケースが多くなっています。これらが承継対価の相場になりますので、これらを参考に承継対価を相談・交渉されるのが良いと考えます。EBITDAとは、税引前利益に、減価償却費+役員報酬+専従者給与を加算した金額です。
時価純資産のみ(営業権はゼロ評価)で承継
時価純資産+正常営業利益の1倍~2倍で承継
時価純資産+EBITDAの1倍~2倍で承継
ケースバイケースではありますが、時価純資産+EBITDAの1倍~1.5倍程度が妥当な水準であり、まずはこの水準をベースで話し合うのが良いと考えています。医療に精通していないM&A仲介会社や顧問税理士のアドバイスにより、営業権は正常営業利益の3年分~5年分と、金額目線が高くなっている院長先生もおられ、交渉が難航することもしばしばあります。
承継元の創業院長の税務の取扱い(個人クリニックの場合)
戸建て開業の診療所で不動産を譲渡した場合は、分離課税の譲渡所得となり、所有期間が5年超であれば、譲渡益×20%が譲渡税になります。一律20%のため、低い税負担で済みます。
テナント開業で診療所の内装を譲渡した場合、クリニックの医療機器を譲渡した場合は、総合課税の譲渡所得となり、所有期間が5年超であれば、長期譲渡所得として1/2課税となります。譲渡益×1/2×15%~55%(超過累進税率)が譲渡税となります。1/2課税のため、税率が半分になるイメージで、こちらも低い税負担で済みます。
さらに、営業権を譲渡した場合、飲食店や小売店のような一般的な事業であれば、税務上も営業権の譲渡として、総合課税の譲渡所得になり、事業継続期間が5年超の場合は、長期譲渡所得として1/2課税となります。
しかし、医師のように患者との強い信頼関係に基づくクリニック事業については、患者はドクター個人に付いているため、税務上は営業権の譲渡と認められず、患者の斡旋の対価として、総合課税の譲渡所得よりも税負担が大きくなる雑所得として課税されることが一般的と考えられます。雑所得には1/2課税はなく、単純に営業権の譲渡対価×15%~55%(超過累進税率)の高い税負担となります。
承継先の新院長の税務の取扱い(個人クリニックの場合)
承継先の新院長が承継開業されるメリットは次のとおりであり、それぞれの要素が承継される新院長にとって魅力的であるほど価値があることになります。
- 既存の内装や医療機器を継続使用できること
- 一定数の患者がすでに存在していること
- クリニックを知る従業員を継続雇用できること
承継開業の場合、クリニックを「時価純資産+営業権」で購入することになります。
時価純資産の対価は、内装設備や医療機器で構成されるため、その対価は、固定資産として資産計上を行って、耐用年数に応じて、毎年費用化していきます。
営業権の対価は、開業のための支出として「開業費」であると考えることができると考えます。開業費は任意償却の繰延資産であるため、開業の初年度に全額を経費処理することもできますし、開業後何年間にわたって、経費処理することもできます。
ただし、営業権の金額設定があまりにも高すぎる場合には、新規開業も検討する必要があります。新規開業は、誰に気を遣うこともなく、相性の良い従業員を採用し、希望の内装や医療機器を導入できます。新規開業2年目で2,000万円以上の大きな収益を上げられる先生も多いので、高い金額を支払って営業権を買わなくても、新規開業した方が早期に可処分所得が増えるケースも多いと考えます。
承継対価の税負担を減らすテクニック
税理士業界でM&Aを行う場合、旧所長先生に顧問として勤務を継続してもらい、経営指導を受けることで、例えば5年間は顧問料という形で支払うことも多くなっています。受け取る旧所長も、所得税の超過累進税率という構造上、単年度で多額の所得を得るよりも、複数の年度に所得が分散された方がトータルの税負担が軽減されます。
クリニックの承継の場合も、同様の方法を活用すれば、創業院長の税負担は少なく済み、結果として、新院長の承継対価も少なくすることが可能であると考えます。また、創業院長のMS法人を活用する方法等もあります。
今回は高額なフィーが発生するM&Aの仲介会社を挟まなくとも、医療承継の正しい知識を持ち、税法に精通した税理士のサポートがあれば、双方にメリットのある譲渡代金の受け取り方法を提案をすることも可能です。
コストのかからない円満な承継開業が可能ですので、承継開業を考えられている先生はぜひ一度、無料相談へお問い合わせください。今後の方向性の解決策をご提案させていただきます!