【税理士監修】会社を潰さないための開業・起業時の事業計画の作成
社長の仕事は会社を潰さないこと
会社を創業して15年程度で、売上を100億円にまで伸ばされた40代の経営者がこのように言っていました。
「社長である私の責任は、会社を潰さないこと」
「自己資本比率の高い財務に強い会社にしていきたい」
会社が潰れてしまうと、大切なスタッフやお客様に大きな迷惑をかけることになります。売上を伸ばして事業を拡大していくことも大切ですが、会社を潰さないことは最も重要な社長の仕事です。
創業時は、売上がほとんど立たない期間が続くことが多いです。この資金繰りが厳しい時期を乗り越えるためには、どのような事業計画を立て、どのような資金調達、資金繰り対策を取れば良いのかについて解説していきます。
著者:フェイス税理士事務所 代表税理士 高田祐一郎
開業シミュレーションの考え方
どの市場でどんな商品で戦うかという経営戦略も重要ですが、その結果として、どの程度の利益とキャッシュを生むのかというシミュレーションが重要です。経営者の方は売上を重視する傾向があり、利益とキャッシュの予測が甘くなりがちです。
しかし、会社を継続していくためには、資金が回る保守的な計画も必要です。金融機関は、売上がどんどん上がるから儲かって返済原資が確保されるという計画よりも、売上が安定していて返済原資が安定的に確保される保守的な計画を好みます。つまり、売上増加に頼りすぎない、説得力のある数値計画にしなければ、金融機関から資金を調達することができません。
1つのシミュレーションを作成するだけではなく、楽観的な計画、消極的な計画の3種類を作成してみることをお勧めします。
損益分岐点売上高を算出する
毎月最低、商品を何個販売しないといけないのかが分からなければ、事業計画を作成することができません。ここで重要となるのが、損益分岐点売上高の考え方です。損益分岐点売上高を求めてみましょう。
- まず、月の固定費がいくらかかるかを試算します。固定費とは売上がゼロでも発生する給与・賞与、家賃、水道光熱費、通信費、リース料などです。例えば、月200万円かかるとします。
- 次に、変動費率を試算します。変動費とは売上に連動して発生する仕入、販売手数料、外注費、運賃などです。簡便的に変動費=売上原価と考えて頂いても構いません。変動費÷売上高=変動費率になります。例えば、60%とします。
- 固定費と変動費率により、利益がトントンになる売上高を算出します。この売上高を、損益分岐点売上高といいます。損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費率)の算式で算定できます。ここでは、200万円÷(1-60%)=500万円となります。この事例では月に500万円の売上をあげなければ赤字になることになります。
- さらに、売上高は、販売単価×販売数に分解することができます。販売単価が1万円であれば、最低でも毎月500個の商品・サービスの販売が必要ということが分かります。これが開業最初の販売目標になります。短期的にこの目標達成ができなければ、事業を開始してはいけません。
このように、毎月の固定費と変動費率が分かれば、シミュレーションは簡単です。月間売上高1,000万円のときの利益は、1,000万円-1,000万円×変動費率60%-固定費200万円=利益200万円と分かります。変動費率の算出が難しいときは、各業界平均の粗利率を参考に、変動費比率を設定すると良いでしょう。
設備投資はどの程度の期間で回収すべきか?
新規事業をスタートするにあたって、初期投資がかかります。この初期投資の回収期間は、どの程度を見込めば良いのでしょうか?反対に、何年で回収できる初期投資なら、その事業を始めてもよいのでしょか?
金融機関は、債務償還年数が10年となるまでは融資をしてくれることから、新規開業についての設備投資の回収期間は、一定の余裕を持った7年が目安となります。開業シミュレーションを作成した場合、事業から生まれるキャッシュにより、設備投資の回収が7年で完了するかをしっかりと判断しましょう。
また、シミュレーションを作成することで、開業時から毎月どの程度の赤字がでるのか、その赤字を補填するためにどの程度の運転資金の調達が必要なのかが分かります。
回収サイト・支払サイトの交渉で資金繰りを楽にする
開業時から、売上の回収サイト、仕入の支払サイトの交渉を行うことで、資金繰りを有利にすることができます。
売上代金の回収について、当月末締分を翌々月末に受領する場合、回収サイトは60日になります。売ってから60日間は売掛金の回収ができないことになります。
例えば、売上代金を翌月末に受領する(回収サイト30日)、売上代金を受領してから商品を発注する(回収サイト0日)といった方法に変更することができれば、早期に売上代金を回収することにより、資金繰りが楽になり、運転資金の調達もより少なく済むことになります。
同様に、仕入代金の支払いについて、当月20日締分を翌月10日に支払う場合、支払サイトは20日になります。仕入れてから20日後には仕入代金を支払うことになります。
例えば、仕入代金を翌月20日に支払う(支払サイト30日)、仕入代金を翌々月末に支払う(支払サイト70日)といった方法に変更できれば、仕入代金の支払いを先延ばしにすることができ、資金繰りが楽になり、運転資金の調達もより少なく済むことになります。
これらは、企業間信用を活用した資金繰り対策になりますが、取引開始後に回収サイト・支払サイトを変更すると、取引先からの信用不信に繋がるため、開業時や当初契約時に回収サイト・支払サイトの交渉しておくことがとても重要となります。
4つの1,000万円を目指せ
私の尊敬する財務コンサルタントの方が、4つの1,000万円を目指そうということを提唱されていました。とても分かりやすい基準であると思います。このラインをすべて達成できている中小企業の顧問先様を考えると、明確なビジョンを持って堅実に経営されている社長の顔が思い浮かびます。
- 役員報酬1,000万円
- 経常利益1,000万円
- 預金残高1,000万円
- 純資産 1,000万円
フェイス税理士事務所では、創業・起業支援を行っています。経営理念、経営戦略、マーケティング戦略など、スケールされたい経営者様を伴走しながらコンサルティングしております。