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【税理士監修】医療法人化をすると国に財産を持っていかれる!?

国に財産を持っていかれるのは誤解!

持分なし医療法人が解散した場合、残余財産は国へ帰属します。国に財産を持っていかれるということです。あちらこちらでドクターやドクターを支える院長婦人から、この話を聞きます。

行政から「医療法人化するということは、病院と心中するということと考えてください。」と言われたり、お知り合いのドクターから「医療法人化すると、財産は国に持っていかれてしまうよ。」と聞いたなど、医療法人化に踏み切れない理由の1つになっていると思います。そもそもこの根拠は何なのでしょうか?

厚生労働省のモデル定款

厚生労働省のモデル定款には、次のように記載されています。モデル定款といっても、持分なし医療法人を設立する場合には、必ず入れなければならない文言です。

本社団が解散した場合の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除き、次の者から選定して帰属させるものとする。

(1) 国
(2) 地方公共団体
(3) 医療法第31条に定める公的医療機関の開設者
(4) 郡市区医師会又は都道府県医師会(民法第34条の規定により設立された法人に限る。)
(5) 財団医療法人又は社団医療法人であって持分の定めのないもの

持分なし医療法人が解散して残余財産が残っていれば、国等に帰属する。つまり、国に持っていかれるということです。法律をそのまま解釈すれば、まさにその通りです。

しかし、合法的な節税策が存在するのと同じように、これについても合法的な回避策が存在します!

必ず知っておくべき回避策

解散時に、医療法人に残余財産が残っていれば、国に持っていかれるということは、解散時に財産を残さなければ良いだけの話です。

例えば、解散時に、医療法人に残る財産を、理事長が役員退職金ですべて抜き出す対策があります。税法上、理事長の適正な退職金の限度額は、「最終役員報酬月額×役員就任年数×功績倍率3倍」で求めるます。この金額までは、税法上も、医療法上も、問題のない範囲での支給です。

しかし、それでもなお医療法人に財産が残る場合は、どうすれば良いのでしょうか?

功績倍率3倍で計算した適正な役員退職金よりも、高い役員退職金(例えば、功績倍率5倍)を支払って、医療法人の財産をすべて抜き出す方法が考えられます。つまり、過大な役員退職金を支払うということです。

過大部分(5倍-3倍=2倍)は、医療法人の損金にならないだけの話です。そもそも解散時に功績倍率5倍もの多額の損金がなくても、功績倍率3倍までが損金になれば、十分税金は発生しないというケースも出てくるでしょう。

過大部分も税制優遇された退職所得

ここで、過大な役員退職金を受け取る理事長にかかる所得税はどのようになるのでしょうか?法人税法上は、過大な役員退職金のうち過大部分は否認されます。

所得税については、過大な役員退職金であっても、退職に基因して受け取ることには変わらないため、過大部分も含めて退職所得になります。過大部分も含めて、退職所得の1/2課税という税制優遇を受けることができるということです。

つまり、過大部分も含めて、役員退職金は、税率が1/2になるということです。役員報酬の最高税率は、55%ですが、役員退職金の最高税率は、その1/2の27.5%で済みます。

しかし、医療法の観点からは、過大な役員退職金は、剰余金の配当禁止規定(医療法54条)に抵触する可能性があります。ただし、現行法において、医療法54条違反は過料20万円を支払えば良い程度の話となっています。

過大退職金に内在するリスク

さらに知っておいて頂きたいことがあります。過料20万円で済むのは、あくまでも現行法での話ということです。そのため、長期的に考えた場合、これで問題なしと安易に考えてしまうのは危険と考えます。

今は過料20万円で済むかもしれませんが、将来どのような規制がかかるか分かりません。平成19年4月から持分なし医療法人しか設立できなくなりました。持分なし医療法人が本格的に設立され出してから10年以上経過したことになります。

後継者不足の問題もあることから、今後持分なし医療法人の解散が増えてくることでしょう。それら多くの持分なし医療法人が、解散時に過大な役員退職金をガンガン支給して、医療法人の残余財産のすべてを抜き出す場面を想像してみてください。問題視される可能性があることは容易に想像できます。

ベストな回避策

したがって、持分なし医療法人においては、将来まとめて過大な役員退職金で抜き出せば良いだけと考えるのではなく、将来の規制も想定して、毎期の適正な役員報酬、適正な役員退職金により、医療法人の解散時には残余財産を残さないようコントロールする対策が必要です。特に解散する可能性の高い後継者のいない医療法人は必須です。

後継者(子)がいれば、理事長(父)に相続が発生し、医療法人から死亡退職金で財産を抜き出しても、相続税が課税されてしまいます。この場合、持分なし医療法人は持分がないため、内部留保に対しては相続税が課税されないというメリットを生かして、医療法人に財産を留保したまま、次世代へ引き継げば良いと思います。

最初の問題提起に戻りますが、持分なしで医療法人化すると、残余財産は国に持っていかれるということは完全な誤解であることがご理解いただけたと思います。

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