【税理士監修】クリニック開業資金と銀行審査の目線
銀行の融資条件と交渉方法
今回のコラムは、これからクリニックを開業される医師の先生向けに、コラムの前半は具体的な開業融資の金利等の条件について、後半は銀行がどのように審査・評価するのかについて解説いたします。年間20件以上開業のご相談を受けている医療専門税理士が実務的な内容を解説いたします。
近年の物価高騰により、内装工事の坪単価や医療機器の販売価格が上昇し、クリニックを開業すると、1億円以上の資金調達が当たり前の時代になってきました。
- 融資を受ける場合、どのような金利条件になるのか?
- 銀行審査の目線として、どこが融資の可否のポイントになるのか?
著者:フェイス税理士事務所 代表税理士 高田祐一郎
金利はいくらですか?
金利の目安は変動金利1.1%前後になります(2025年8月時点)。
先生の調達金額や背景資産で多少増減する可能性はありますが、住宅ローンに近い有利な条件で借りることができます。クリニック開業融資についても、住宅ローンと同様に団信保険を付けることができ、その保険料は0.2%~0.5%が加算されることになります。団信保険を加算した出来上がりの変動金利は1.3%前後が相場になります。
万が一、先生が不慮の事故や急な病気で亡くなられてしまった場合、銀行からの借入金は、相続債務として、奥様やお子様が相続することになります。相続放棄をすることもできますが、その場合には自宅等の相続財産も放棄しなければなりません。
しかし、団信が付くことで、万が一、先生に相続が発生した場合には借入金残額の全額の返済が不要になります。また、最近では金融機関が、死亡だけではなく、「全疾病団信」というものを付けてくれることもあります。死亡にまで至らなかったとしても、「がんになった、脳梗塞になった等」の場合にも、借入金の全額の返済が不要になります。このように団信が付くことで安心して経営を行うことができます。
日本政策金融公庫や保証協会融資も検討すべきですか?
日本政策金融公庫や保証協会融資という選択もありますが、日本政策金融公庫の融資は2.5%前後になります。保証協会融資は保証料を加味すると2.5%前後になります。そのためクリニックを開業される場合、まず銀行から融資を受けられないか検討を行い、受けられない場合には日本政策金融公庫や保証協会融資を検討する流れになります。
返済期間は何年ですか?
設備資金・運転資金ともに一般的な返済期間は20年間になります。
金融機関によっては30年程度まで返済期間を延ばしてくれることもあります。早くクリニックが軌道に乗り、資金に余裕がでれば、繰上げ返済を検討して、金利負担を軽減させることもできます。
ただし、固定金利で借りている場合、繰上げ返済をすると、残りの固定金利期間の利息の全額を支払わないといけないという違約金が設定されることも多いので、お気を付けください。
据置期間はありますか?
一般的な据置期間は1年間になります。
融資を受ける際には、据置期間を設定します。開業当初は集患が難しいものの、人件費や家賃等の支払いは発生し、収支がマイナスとなります。レセプト報酬も開業3か月後からしか入ってきません。
この状況で、開業月から借入金の返済負担もあれば、資金繰りを大きく圧迫します。そのため、据置期間1年の設定を銀行へ依頼しています。これにより借入金の元金返済は、開業1年後から開始となり、資金繰りが安定します。
担保や保証人は必要ですか?
テナント開業の場合、無担保・無保証人になります。戸建て開業の場合は担保を要求される可能性があります。自宅を担保として差し出す、奥様や親御様に連帯保証人になってもらうのは大きな抵抗があると思いますが、無担保・無保証人が一般的ですので、ご安心ください。
銀行の審査で重視されるポイント
銀行が重視するのは3つ
資金調達にあたって、様々な書類を銀行へ提出しますが、銀行審査では次の3つを重視します。
- 資金計画
- 事業計画
- 背景資産
資金計画
資金計画とは、開業にあたって、どの程度の初期コストが発生するかをまとめたものになります。内装工事、医療機器、備品、開業物件を借りるときの差入保証金や礼金、医師会の入会金、運転資金のことになります。
まずは内装工事や医療機器等の見積書を取得します。銀行は提出された見積書の金額を融資額の上限として審査を行います。内装工事等では後々追加工事が発生することも多いため、想定よりも高い金額での見積書を、業者にいったん作成してもらい、銀行へ提出します。
銀行担当者としては、審査完了後に、追加工事で金額が増えたと言われても、どうすることもできません。なお、融資額が減る場合には全く問題ありません。
なお、運転資金としての融資は5~6か月分程度が限度になります。
事業計画
事業計画とは、開業1年目の月次損益とキャッシュフロー、開業2年~7年の年間損益とキャッシュフローのシミュレーションを行った計画書になります。シミュレーションを行うためには、診療圏分析により想定患者数を試算し、保険診療と自費診療ごとの原価率の把握も必要になります。
事業計画書は開業コンサルタントや税理士が作成することが多いですが、1つのパターンしか作られていないことがほとんどです。1億円以上の借入を行って、長期的なテナント契約をし、10名近くのスタッフも採用するため、1つのパターンの事業計画だけで不安と思います。
想定よりも患者が集まらなかった、固定化しなかったという事態も想定されます。スタートダッシュが遅くなった場合、どの程度の患者数なら、資金繰りが回り、生活していけるのかというシミュレーションもしておく必要があります。当社では3つのケース作成し、可視化した上で、開業される先生とお打ち合わせを行っています。
- ベースケース
- 悲観ケース(ベースケースより売上等〇%減)
- 楽観ケース(ベースケースより売上等〇%増)
背景資産
背景資産とは、自己資産のイメージです。銀行としては、資金計画の総額の20%以上の背景資産を持っておいて欲しいと考えています。融資額が1億円であれば、背景資産は2千万円以上必要になります。
さて、背景資産として、どのような資産が加算対象になるのでしょうか?
預金、株式、投信、金、保険の解約返戻金は、背景資産として扱われます。つまり、換金しやすい資産です。そのため、流動化が難しい不動産、投機的なFXは、背景資産としては対象外になります。医師の先生に背景資産を質問したときに、よくロレックスが話題に上がり、資産価値が高い時計になりますが、背景資産としてはゼロ評価です。
20%の基準以外にも、最低額の基準が存在します。銀行としては、、自己資産の額の最低ラインとして開業するなら2~3千万円は持っていて欲しいと考えています。銀行は開業資金を融資した後に、追加で2回目の融資を打つことは難しくなっています。予想外の患者の固定化の遅れにより、院長先生の生活ができなくなる可能性もあるので、最低2~3千万円は貯蓄しておいて欲しい、貯蓄してから開業して欲しいと考えています。浪費される先生かどうかの確認でもあります。
なお、銀行から、奥様の金融資産やご実家の金融資産を開示して欲しいと言われることがあります。これは担保に入れるわけではなく、クリニック経営に万が一のことがあった場合には、ご家族のバックアップが想定できることから、開示すると金利条件面に有利に働きます。開示することに支障がなければ、開示されても良いと思います。
収益不動産を所有していても開業融資を受けられますか?
収益不動産へ投資をされる先生も多いですが、開業資金の調達にあたって、収益不動産に紐づく融資があれば、デメリットに働きます。銀行として、事業用資金として貸し付けられる金額には限度があります。クリニック開業融資も、収益不動産への融資も、事業融資として捉えています。そのため、開業融資と収益不動産の融資を合わせると、2億円以上になる場合は交渉が必要です。場合によっては不動産の処分、第2順位での抵当権設定の依頼があることもあります。
フェイス税理士事務所の資金調達サポート
フェイス税理士事務所では、銀行からの資金調達にあたって、下記のサポートを行っております。融資手数料を請求されるコンサルタントも多いですが、フェイス税理士事務所では開業前の先生にご負担のないよう無料でサポートをしています。事業資金の調達は初めての経験になると思いますので、ストレスがかからないよう医院開業に強い専門家のサポートは必須です。
- 銀行の紹介
- 銀行との条件交渉の代理
- 銀行との打ち合わせ時の同席
資金調達、資金計画の作成、事業計画の作成も含めて、開業の準備段階から開業月まで完全無料でトータルサポートを行っております。
誠実にレスポンス良く、伴走型サポートさせて頂きますので、クリニック開業の決意をされたら、ぜひお問い合わせください。開業に向けて一緒に頑張りましょう!