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【税理士監修】医療法人の株式・投資信託の購入

医療法人は資産運用ができるか?

医療法人が、株式や投資信託を買うことで資産運用をすることはできるのでしょうか?

医療法人の管轄は各都道府県になります。都道府県によって指導内容に多少の差異があることが多いですが、基本的には医療法人の定款や医療法人運営管理指導要綱に基づいて指導が行われることになります。

著者:フェイス税理士事務所 代表税理士 高田祐一郎

 

厚生労働省が公表している医療法人のモデル定款では下記の記載があります。「確実な有価証券」とは何かについて、厚生労働省からの通知はありません。都道府県ごとのローカルルールは存在しているようです。

第12条 資産のうち現金は、日本郵政公社、確実な銀行又は信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管するものとする。

 

また、医療法人運営管理指導要綱には下記の記載があります。つまり、売却益の獲得を目的とした株式の保有はできないことになります。

医療事業の経営上必要な運用財産は、適正に管理され、処分がみだりに行われていないこと。そのため、現金は、銀行、信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管するものとすること(売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でないこと

社会福祉法人の確実な有価証券の範囲とは?

社会福祉法人のモデル定款にも、医療法人同様に、「資産のうち現金は、確実な金融機関に預け入れ、確実な信託会社に信託し、又は確実な有価証券に換えて、保管する。」という文言があります。

さらに、社会福祉法人のモデル資金運用規程には、以下の記載があります。医療法人における確実な有価証券の範囲として参考にはできるかと思います。

法人の有する資産については、従来「資産のうち現金は、確実な金融機関に預け入れ、確実な信託会社に信託し、又は確実な有価証券に換えて、保管することとし、その旨を定款に明記すること。」とされ、実際には元本保証型の金融商品で運用するよう指導がされてきたが、民法上の公益法人と同等程度の運用を可能とするために、運用財産について株式保有等を認める措置が講じられた。これは、法人の自律的な経営を可能にするためのものであり、法人の責任で資金運用を行うことが認められたものである。しかしながら、元本保証でない金融商品の運用が認められたからといって、むやみに株式等を保有し、かえって法人の資産が低減するようでは本来の資産運用の意味をなさなくなるため、自主的なルールを定め、適切な運用が図られるようにすることを目的にモデル資金運用規程を定めることとしたものである。

(運用対象)
第7条 運用対象とする有価証券等は、原則的に元本回収の確実性を鑑み、以下のとおりとする。
ア 預貯金
イ 金融債
ウ 金銭信託
エ 公社債投資信託
オ 国債
カ 政府保証債
キ 公庫・公団債
ク 地方債
ケ 日本の格付機関のうち1社以上が、長期債務についてBBB格以上と格付している事業債又は転換社債
コ 日本の格付機関のうち1社以上、かつ、外国の格付機関のうち1社以上が長期債務についてA格以上、及びカントリーリスクのランキング50位以内と格付している円建外債(償還も円建であること)
サ 株式
シ 株式を含んだ投資信託
2 前項の規定にかかわらず、理事会が特に認めた場合は、前項に掲げる運用対象以外の商品に運用することができる。

医療法人が資産運用できる範囲

結論として、医療法人では株式・投資信託の購入は難しいということになります。しかし、国公債や確実な有価証券であれば運用することができることになります。国公債は内容が明確ですが、確実な有価証券の定義や範囲は医療法人ではどこにも書かれていません。

確実な有価証券とあるため、国公債と同等に安全な社債程度なら認められると思います。投資の世界では、格付BBB-までが投資適格扱いされており、BB+は投機的で機関投資家は手を出せません。最低でも格付BBB-以上は必要と考えられます。

また、投資信託のような元本割れする可能性のあるものについては、リスクがあるため、指導対象になる可能性があります。

都道府県はどのように把握して指導するのか?

医療法人は、毎年1回、管轄の都道府県に対して「決算届」を提出します。決算届には貸借対照表があり、多額の有価証券の計上があれば、都道府県から確認の連絡があります。内容によって速やかに売却するように指導が入ります。

確実な有価証券の判断が非常に難しいですが、医療法人の株式投資や投資信託についてはできる限り避けた方が安全です。なお、2016年9月から施行された理事に対する任務懈怠時の損害賠償責任等が規定されていますので、株式投資等で大幅な損失が出た時の対応も投資前に検討する必要があると思います。

医療法人での資産運用の手法

生命保険の中には、ソニー生命の変額保険に代表されるように、その実態が世界株式等の投資信託により運用されているものがあります。変額保険は運用成績によって元本割れする可能性もありますが、あくまで生命保険であり、目的は投資ではなく、加入した被保険者に対するリスクを回避することであるため、投資目的とはなりません。医療法上において、生命保険には特に制限は設けられておらず、変額保険であれば資産運用が可能と言えます。

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