【税理士監修】株式会社は医療法人に出資できるか?
出資持分とは?
株式会社が医療法人に出資したいというご相談を受けることがあります。医療法人には、持分あり医療法人と持分なし医療法人の2つがあります。そもそも持分とは何でしょうか?持分とは、次の2つの財産権のことです。医療法人に出資をすることで、持分を所有することになります。
①社員が退社したときの持分払戻請求権
②医療法人が解散したときの残余財産分配請求権
持分あり医療法人の定款には、「第〇条 社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。」「第〇条 本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする。」との記載が入ります。
著者:フェイス税理士事務所 代表税理士 高田祐一郎
社員が退社したときの持分払戻請求権
持分払戻請求権とは、持分を所有する社員が退社するときに、持分に対応する医療法人の純資産の払戻しを受けることができる権利にはなります。例えば、社員が50%の持分を所有、医療法人の貸借対照表の純資産が2億円の場合、その社員は医療法人から1億円の払戻しを受けることができます。
しかし、医療法人からすれば、純資産の半分も払い戻すと、医療機関として事業継続ができなくなる恐れがあります。さらに医療法人は配当ができない非営利法人でありながらも、この純資産の払戻しは配当に近い行為でもあります。
そのため、平成19年4月以降、持分あり医療法人は設立することができなくなりました。現在設立できるのは持分なし医療法人のみです。持分なし医療法人の場合、そもそも持分がないため、持分払戻請求権は存在しません。
なお、持分あり医療法人は、経過措置医療法人として、当分の間、持分ありのまま存続できることになっています。令和4年において、持分あり医療法人は37,490件、持分なし医療法人は19,284件です。
「当分の間」とはいつまでなのかが気になるところですが、持分を強制的に無くすことは、憲法で定める財産権の侵害行為に抵触する恐れがあるため、持分あり医療法人は永久に存続可能と言われています。
医療法人が解散したときの残余財産分配請求権
医療法人の出資者は、医療法人が解散した時には、持分に対応する残余財産の分配を請求することができる権利があります。例えば、出資者Aが50%の持分を所有、解散する医療法人の残余財産が2億円の場合、その出資者Aは医療法人から1億円の分配を受けることができます。
株式会社は医療法人に出資できるか?
株式会社は持分あり医療法人に出資することができます。これは「医療法人に対する出資又は寄附について」という厚生労働省の資料において明確化されています。しかし、社員としての社員総会における議決権を取得することや役員として医療法人の経営に参画することはできないことになっています。
つまり、株式会社が出資した場合、社員になれないことから「社員が退社したときの持分払戻請求権」を行使することはできないことになります。財産権としては「医療法人が解散したときの残余財産分配請求権」のみです。そのため、株式会社が出資を回収するタイミングは、医療法人の解散時または持分の売却時ということになります。