【税理士監修】クリニック開業時の消費税還付は本当に正解か?
歯科・美容皮膚科で開業時に消費税還付を受けるという選択
歯科でインプラントや矯正に力を入れられる場合、皮膚科や形成外科で美容に注力される場合には、開業時の1億円前後かかる設備投資で支払った消費税について、消費税の還付が受けることができます。
しかし、消費税還付は、得が確定する制度ではありません。開業後3年間の納税額、医療法人化までを含めたトータルの判断が必要なのです。
【還付が正解になりやすいケース】
- 開業時の設備投資が多額、特に自費診療のみに使用する医療機器が多い
- 自費診療のみに使用する診療材料や美容仕入が多い
- 医療法人成りはしない
【還付が不利になる可能性があるケース】
- 開業3年目に医療法人成りをする
著者:フェイス税理士事務所 代表税理士 高田祐一郎
このコラムでは、開業医の先生が迷いやすい還付の是非を、制度の要点とシミュレーションの考え方で分かりやすく解説します。
まず基本として、消費税には「原則課税」と「簡易課税」という選択できる2つの計算方法があります。
- 原則課税は「(患者様から自費診療で預かった消費税)-(設備投資・仕入・経費で支払った消費税)=納税額」になります。つまり、預かった消費税と支払った消費税の実額の差額を納税する方法です。設備投資で支払った消費税が大きいと還付になります。
- 簡易課税は「患者様から預かった消費税×(1-みなし仕入率)=納税額」になります。みなし仕入率は事業区分ごとの売上に対する経費率であり、自費診療サービスは50%、歯磨き粉や化粧品等の物品販売は80%、固定資産の売却は60%になります。つまり、実際に支払った消費税は無視して、預かった消費税に割合を乗じて納税額を計算する方法になります。そのため、簡易課税で還付を受けることはあり得ません。
還付を受けるには課税事業者と原則課税の選択が必要
クリニック開業1年目は免税事業者になりますので、開業時の設備投資に伴う消費税について還付を受けるためには、消費税の課税事業者になり、原則課税を選択する必要があります。
ここでの注意点として、1,000万円以上の高額特定資産となる設備投資を行い、原則課税を適用した場合には、開業3年目まで原則課税が強制されます(いわゆる3年縛り)。具体的には次のとおりです。
【①開業1年目に還付申告を行う場合】
- 開業1年目:課税事業者(原則課税を選択)
- 開業2年目:課税事業者(原則課税が強制)
- 開業3年目:課税事業者(原則課税が強制)
【②開業1年目に還付申告を行わない場合】
- 開業1年目:免税事業者
- 開業2年目:免税事業者(一部例外あり)
- 開業3年目:課税事業者(原則課税と簡易課税の有利選択)
つまり、下記2つのどちらが有利になるかの判定が必要になります。
- 開業1年目に設備投資に伴う消費税の還付申告を受け、2年目および3年目は原則課税により納税を行うこと
- 開業1年目および2年目は免税事業者として消費税の納税をゼロとし、3年目は原則課税と簡易課税の有利判定を行うこと
開業1年目の12月31日までに意思決定が必要
「①開業1年目に還付申告を行う場合」と「②開業1年目に還付申告を行わない場合」で、3年間シミュレーションを行わないと、有利不利判定ができません。さらに、この2つのどちらを選択するかの意思決定は、開業1年目の12月31日までに行わなければなりません。
医師の先生としても、開業1年目の12月31日を迎える段階で、1年後や2年後の業績は想像できないケースも多いと思います。そのため、シミュレーションの難易度が高くなっており、合理性のあるシミュレーションをするためには、医療専門税理士への早期の情報提供やコミュニケーションが重要となってきます。
弊所ではできる限り予測精度の高いシミュレーションを行うため、下記をヒアリングした上でシミュレーションを行っています。
- 自費診療にしか使わない医療機器はどれですか?
- 自費診療にのみ使用する仕入・経費の金額は、年間どの程度ありますか?
- 保険診療収入と自費診療収入の割合は、年間どの程度で推移していきますか?
- 歯磨き粉や化粧品等の物品販売の金額は、年間どの程度ありますか?
医療法人設立という落とし穴
私がご支援させて頂く医師の先生は開業後短期間で成功される確率が高く、開業2年目には2,000万円程度の利益を確保される方が多い印象です。2,000万円の利益が発生すると、所得税の税率が50%を超え、これ以上稼いでも半分は税金として国に持っていかれることになります。そこで開業3年目の選択肢として登場するのが医療法人の設立です。
医療法人を設立する場合、個人開業医時代に購入されたクリニック内装や医療機器、車両等の固定資産を医療法人へ売却します。これにより医療法人所有として継続して減価償却費を計上していくことになります。
この売却という行為は消費税の課税対象となります。医療法人へ移行する時点の内装や医療機器等の固定資産の減価償却後の帳簿価額を、時価と考えて売却します。
つまり、固定資産の帳簿価額×消費税10%の納税が発生するわけです。原則課税の場合はこの金額で納税します。簡易課税の場合はみなし仕入率60%が使えるため、消費税10%×(1-みなし仕入率60%)を納税すれば良いわけです。
例えば、設備の帳簿価額が7,000万円の場合、原則課税700万円よりも簡易課税280万円の方が、420万円も納税が安く済みます。
- 原則課税の納税額:7,000万円×消費税10%=700万円の納税
- 簡易課税の納税額:7,000万円×消費税10%×(1-みなし仕入率60%)=280万円の納税
開業1年目で還付申告を受けた場合、3年縛りにより、開業3年目まで原則課税が強制されます。医療法人設立も想定したシミュレーションが必要となり、かなり難易度の高いシミュレーションになります。
まとめ
クリニック開業時の消費税還付の是非は、開業後3年間、そして医療法人化を考えての判断が必要になります。開業時の消費税還付は魅力的ではあるものの、還付を取った後の開業2年目、3年目、そして医療法人化まで含めると、最適解はクリニックごとに変わります。
消費税還付の意思決定は、開業1年目の12月31日までにする必要があるため、医療専門税理士へ早期の情報提供やコミュニケーションが重要となります。
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